インフォームド・コンセントを疎かにすると、治療結果によっては飼い主とトラブルになったり、訴えられたりする可能性が高まります。
当メディアのアドバイザーも務めてくださっている、ペット弁護士®先生、中間さんが解決した実際の相談事例を基に、専門家はどのように解決したのか、また、トラブルや訴訟になる前にできたことなどをインタビューでうかがってきました。
なかま法律事務所は、動物病院・ペットビジネス事業者のペット法務に注力している数少ない弁護士事務所です。
代表弁護士である中間隼人さんは、(一社)ペットライフデザイン協会の代表理事(2023年4月から)や(一社)犬猫生活福祉財団設立及び評議員などをつとめる専門家。ペット業界の法務に関するアドバイザーを数多く務める他、法人・開業医向けのトラブル防止セミナーも定期的に開催しています。
手術後に腹膜炎で死亡した犬について、「術後のリスクの説明が不十分だった」として、飼い主から説明義務違反に基づく損害賠償請求をされてしまいました
こちらの動物病院様では、手術同意書は取得していたものの、同意書の記載は少々簡潔だった印象でした。法律的観点から言うと、手術のデメリットやリスクについて詳しく説明したものとは言えませんでした。
担当獣医師様にヒアリングしたところ、詳細は口頭で説明をしたということでした。カルテにも、説明を尽くしていることが推察される記載があったため、動物病院に法的責任はないということで、飼い主様とお話させていただきました。
そうですね。そのおかげで、お見舞い金の支払いと、口外禁止を内容とする和解書を交わし、早期解決を図ることができました。
また、こちらの動物病院様には顧問契約を締結いただいたので、弊所が作成した手術同意書のひな形をご提供し、医療過誤トラブルの予防策を講じることもできました。
紛争になってしまうと、客観的な証拠が極めて重要になってきます。ただ、今回の件では、そもそも手術同意書に手術のリスクを詳しく記載できていれば訴えられなかった可能性があります。
病院(獣医師)自身の身を守るために、手術のメリット・デメリットや、手術リスクについて、後から「聞いていない」と言われないような同意書を作成しておきましょう。その上で、飼い主様が不安を抱かないように丁寧な対応を心がけることが重要だと思います。
カルテの議事録に救われた事例だったようです。
ですが、「同意書」にリスクヘッジの申し送りが入っていないと、今回のケースのように紛争になる寸前にまでいたってしまいます。
普段の丁寧な対応も重要ですし、大事な家族同様のペットを失った飼い主さんの心理状態を考えると、同意書の書き方も専門的な知識が必要だと推測されます。
紛争になってしまうと、それこそ客観的な証拠を求められるので、今すぐペット関連の法律に詳しい弁護士に助けを求め、手術同意書を見直すところから始めてみてはいかがでしょうか。
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いかがでしたでしょうか?
これは、動物病院の数あるトラブル・訴訟の一例にすぎません。
閉院など、被害が大きくなる前に対策できるように、一番のおすすめは顧問弁護士をみつけることではありますが、次に動物病院の皆様ご自身でできること、対処法、どういう場合に弁護士でないと対応できないのかなどを、中間先生の監修の基まとめてみましたので、併せて参考にしてみてください。
人への治療だけでなく、獣医療の現場においても、インフォームド・コンセントは重要です。
動物病院で獣医師がペットの治療を行う行為は、民法上、飼い主との準委任契約(民法645条)に当たります。そして、この契約において獣医師は、飼い主に対して治療内容についての説明義務を負っていると考えられています。
公益社団法人日本獣医師会は、2009年、獣医師や獣医師会に対する社会の信頼を高め、より適正な動物医療を提供することを目的に、「インフォームド・コンセント徹底宣言」を発表しました。
獣医師が飼い主に対して十分な説明を行わず、オーナーの治療方法を選択する権利が侵害された場合、獣医師には法的責任が発生するので注意が必要です。
リスク回避、トラブル予防のためには、飼い主と充分なコミュニケーションをとることが大切です。病気や容態について丁寧に説明したり、複数の治療法がある場合はそれぞれのメリット・デメリットを、あるいは治療にリスクがあることなどを理解してもらったりした上で、飼い主自身の選択を尊重しましょう。
注意したいのは、「わかりやすい説明」を行うこと。
獣医師にとっては当たり前のことでも、飼い主には理解できないケースもあります。専門用語などはできるだけ使わずに、かみ砕いた表現などを使うと良いでしょう。分かりにくい言葉を多用して説明を行っても、飼い主が理解・納得できていない場合、かえって病院や医師に対する不信感が生まれてしまいます。
インフォームド・コンセントを行い、飼い主も理解したことなどを客観的に示してくれるのが、手術同意書です。万が一クレームなどに発展した際も、獣医師側の正当性を裏付ける証拠となるため、作成しておいた方が良いでしょう。
手術同意書(承諾書)では、「具体的にどんな治療を行うのか」「施術にどんなリスクが伴うのか」を飼い主にも理解できる表現でまとめます。その上で、末尾に飼い主の署名押印欄を設けましょう。
消費者契約法とは、不当な勧誘や、消費者にとって一方的に不利な契約を無効にできる法律です。知識量や理解度において不利な立場にいる消費者を守るために作られました。
これによると、たとえ手術同意書に飼い主のサインがあっても、飼い主にすべての責任を負わせるような内容では、消費者契約法違反に問われる可能性があります。
また、「結果の如何に関わらず法的責任を一切問わない」などと同意書に明記してあったとしても、消費者契約法により無効になる可能性が高いようです。
このため、インフォームド・コンセントの徹底とともに、リスク回避に向けた手術同意書の作成などを行うことが大切です。
トラブルの多くは、治療前後の説明不足や、医師・スタッフの対応の悪さが原因です。たとえ治療が思い通りに行かなくても、「誠心誠意診てくれた」と思えれば、納得する飼い主が大半ではないでしょうか。
日々の忙しさで忘れがちですが、「自分が飼い主だったら、どんな風に診て欲しいか、説明して欲しいか」と考えて、丁寧にコミュニケーションを取りましょう。
最近では、診療中にこっそり録音をして、トラブルになったときの証拠にしようとしている飼い主も少なくありません。このため、後から録音が出てきても問題ないような発言を日頃から心がけてください。専門家監修のもと、あらかじめ対応マニュアルを作成しておくのもおすすめです。
動物病院のミスにより、ペットの病状が悪化したり、死亡したりした場合、飼い主による損害賠償請求が行われる場合があります。
損害賠償の範囲としては、「治療費」「飼い主への慰謝料」「ペットの購入金額」「葬儀費用」などです。それぞれの金額目安は、以下の通りです。
ペットは命ある生き物ですが、法律上は「物」として扱われるため、賠償金は人間の場合とは大きく異なります。とはいえ、訴訟トラブルや賠償金の支払いは、病院経営に大きな影響を与えるもの。医療ミスを起こさないような院内対策や、実際にトラブルに巻き込まれた場合の対応策などを考えておくことが大切です。
一方で、病院側に過失がないにもかかわらず、飼い主が「金を払え」「謝罪しろ」など理不尽な要求を長期間繰り返す場合は、債務不存在確認訴訟を起こすのも一つの手段です。債務不存在確認訴訟とは、「債務が存在しないこと」を裁判所に確認してもらうための訴訟のことです。
また、場合によっては、恐喝、脅迫、強要、業務妨害、不退去罪などの罪に問える可能性もあります。悪質なクレーマーには、毅然とした態度で対応するようなアクションも効果的でしょう。
手術を行う際は、治療内容やリスク、それぞれの治療についてのメリット・デメリットなどを分かりやすく説明し、飼い主の不安をなくしてあげましょう。また、術後に「聞いていなかった」「説明されなかった」などと言われないよう、説明内容を書面化したり、カルテを詳細に書いたりしておくことも大切です。
それでも獣医療過誤が発生した場合は、速やかに弁護士に相談しましょう。自分たちだけで判断し、誤った対応をしてしまうと、トラブルや損害が拡大してしまうおそれがあります。
クレームや訴訟を起こされてしまうと、病院経営に大きな影響を与えます。このため、インフォームド・コンセントを徹底し、飼い主とのコミュニケーションを充分に取るよう心がけましょう。
一方で、トラブルが生じた場合は、業界に精通したペット弁護士に相談するのがおすすめです。顧問契約を行い、「何かあってもすぐ相談できる」体制を整えておけば、スタッフも安心して業務に集中することができるはずです。
「人も動物も豊かに暮らせる社会を実現する」を理念に、横浜市で事務所を構える弁護士事務所です。ゆっくり丁寧にヒアリングを行い、迅速に対応する「SLOW&QUICK」を実践。ペット法務では、ペット法務やビジネスに精通したスペシャリストが、高品質なサービスを提供しています。
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